東京品川・武蔵小山のスポーツバイクショップ、スポーツバイク・ハイロードです。バイクフィッティング、インソール成形、イベント参加などご相談ください!

スポーツバイク・ハイロード

スポーツバイク・ハイロード
書籍紹介「High-Tech Cycling」(3)

作成2008/02/29

第6章 自転車におけるパワー:ロード及びマウンテン

 この章ではパワーpowerという概念、パワーの自転車における意義、その測定方法、自転車でパワーを消費する各要素(空気抵抗など)の実際、競技におけるパワーの実際、トレーニングとパワー、などが解説されている。

◆パワーの定義 
Powerパワー = force力 x velocity速度

例 時速30km/h(=8.33m/sec)で走行しているライダーが空気抵抗・登坂抵抗などすべての走行抵抗の合計30Nに打ち勝って走行している場合、発揮しているパワーはおおよそ250Wとなる(249.9W)。ちなみに一馬力は746W。

◆パワーの意義 
適切なトレーニングはトレーニングの時間・強度・頻度の三つの要素を組み合わせることで得られる。パワーはトレーニング強度を測定するもっとも適切な指標であり、走行速度、心拍数といったこれまでの指標よりも遙かに優れている。

ちなみに人間は発生させた化学的エネルギーの21〜24%しか自転車で走行するという運動に変換できないという。従って250Wの走行パワーを発揮するためには1000W以上の代謝エネルギーを要することになる。

◆自転車におけるパワーの性質 必要なパワーは五種類の走行抵抗要素を考慮することによって計算できる。

(1) 摩擦抵抗(駆動装置の摩擦損失による抵抗)
(2) 慣性抵抗(バイクの加速に慣性力によって加わる抵抗)
(3) 登坂抵抗(登坂時に重力によって加わる抵抗)
(4) 転がり抵抗(タイヤの転がりに際して生じる抵抗)
(5) 空気抵抗

 図6.1によると、平均350Wの出力を発揮するためには上死点(反対側のペダルの下死点)で100W程度、最大トルクを発揮できるクランク90度付近では600Wの瞬間発揮パワーが必要なことが見て取れる。

○摩擦抵抗 グリス潤滑はオイル潤滑の6〜7倍の抵抗を、カップ&コーン型ベアリングはカートリッジ型ベアリングの1/7の抵抗を、シールド型ベアリングは非シールド型ベアリングの10倍の抵抗を示すという。チェーンラインも抵抗に影響する。各条件を最高に整えると摩擦抵抗による駆動系での損失は全入力の2〜4%になる。

○転がり抵抗 タイヤの接地に伴う変形で一部のエネルギーが熱として失われるが、この損失が転がり抵抗の主要素である。転がり抵抗には静的要素と動的要素があり、おのおのの代表例と計算方法が掲載されている。

○登坂抵抗 図6.2に勾配と速度に応じた登坂に必要なパワー(車重ポンド当たりワット数)が示されている。例:勾配5%のコースを時速10mile(16.1km/h)で登坂しようとするライダーは車重1ポンド当たり1ワットの出力を必要とする。仮にライダーの体重と機材の合計が80kg(176ポンド)だとすると、必要な登坂パワーは176Wとなる。(空気抵抗など他の抵抗は別途)。

○慣性抵抗 バイクに加わる他の四つの抵抗が、ライダーの発揮するパワーよりも小さくなるとバイクは加速しはじめる。軽量なバイク(と体重)が加速で有利であることが計算で紹介されている。

○空気抵抗(内容が多いので項目をあらためる。本稿注)

◆空気抵抗
速度が20mph(約32km/h)を超えると全走行抵抗のおおよそ80%が空気抵抗となる。通常のバイクの場合、バイクに生じる抵抗が全抵抗の35%、残りはライダー側で生じる。

(1)バイクフレームの設計 空気抵抗に優れたバイクの設計の歴史が概括されている。

(2)バイク部品とホイール 表6.2に各種パーツの生じる空気抵抗が示されている。30mph(約48.4km/h)で鉛筆半分ほどの棒を気流に直角に保持するだけでおおよそ10gの空気抵抗を生じる。ホイールについては以下のようにいえる。

1. ディスクホイールと3スポークホイールは空力上普通のホイールよりも遙かに優れている。とくにレンズ状のホイールは優秀。
2. 細い18mmのタイヤだと空気抵抗を大幅に削減できる。
3. ホイール直径が小さくなると抵抗は減少する。
4. エアロ形状のスポークは空気抵抗を劇的に低減させる。スポーク本数は少ない方がよい。
5. エアロリムは整流効果があり、抵抗を軽減させる。
6. ディスクホイールと3スポークホイールでは、横風にともなう揚力により抵抗がさらに減少する。

(3)ライダーのポジション
ライダーの身体で生じる空気抵抗は全体の65〜80%にのぼる。(風洞実験他の研究から)背中を平らにし・頭を低くし・前腕を水平に伸ばしたポジションが劇的に空気抵抗を軽減させる。またごくわずかの姿勢変化で抵抗は大きく変わる。

例 通常のエアロポジションでの抵抗が23.57Nのライダーが、ステムを1インチ下げ、エアロバーを1インチ伸ばし、少し頭を下げた結果抵抗は22.28Nまで低下した(時速48.3km/hの例)。この変化は4000mTTでおよそ3.91秒の短縮に相当する。

(ここでエアロポジションをとる時の骨盤の角度変化、筋肉の伸展の変化、ペダリング様式ないし効率の変化、腿が胴にあたる問題、「前乗りポジション」、についてわかりやすく言及されている)。
(腕を前に伸ばす時に、肘をそろえるべきか離すべきかについても考察されている)

背中を平らにすると首と腰に大きな負担がかかるし、エアロポジションでは前輪荷重が大きくなりバイクの安定性と操縦性が犠牲になるので、新しいポジションへの適応は時間をかけて行うべき。

(4)ドラフティング
ドラフティングとパワーの関係については様々な実験がなされている。自転車の集団と併走する車に積んだ機材でライダーの酸素消費量を測定した結果、一列の集団の2番手、3番手、4番手のライダーは先頭との比較で26プラスマイナス7%のエネルギー節約ができるとわかった。8人の集団の5番手以降だと39プラスマイナス6%の節約となる (1996年)。

パワーメーターを使用し競技場で測定したデータ(1996年アトランタオリンピックのための準備実験)によると、4人の集団の先頭に対して、2番手は33〜39%のパワーの節約が、3番手と4番手だと38〜43%の節約ができる(図6.4)。

(余談として、空力に優れた乗り手の後流は小さくなるので、後続の得られるドラフティングの恩恵が小さくなるかもしれない)

◆ 研究室外でのパワーの測定
SRM、パワータップ、ポラールの各機器が紹介されている。

◆ ロード及びマウンテンバイクの競技における発揮パワーの実際
(1) マスドスタート・ロードレースの場合
1994年のツアー・デュポンで記録されたデータ(3時間半のステージ)によると、心拍はパワーとさほど相関していない。
またどれほどのパワーをどのくらいの時間の割合で発揮しているかというデータ (表6.3)が得られた。表6.4によるとレース中の平均パワーは202〜300Wで、最大パワー(517〜1109W)を大きく下回る。

1996年ツール優勝のB・リースがSRMパワーメーターを付けて260kmのステージを走った記録によれば、パワーが上昇する際は530W程度まで上昇し、ステージ最後に単独の逃げを行った40km の区間では平均パワーは390Wに達した。

(2)個人TTの場合
2000年の報告によると、ツール・ジロ・ブエルタに含まれる28プラスマイナス8.6kmの距離の個人TTでの十数人のプロ選手の平均パワーは347〜380Wだった。また、平均パワーはレース距離と各選手の最大パワーとに相関がみられた。

最大パワーと平均パワーとの比率は、レース距離に応じておのおの、
7.3km→89プラスマイナス6%
28km→84プラスマイナス7%
49.3km→79プラスマイナス6%
となった。

(3)MTBクロスカントリーレースの場合
MTBでは平均パワーがロードレースよりも低くなり、またハイパワー(500W以上)の発揮時間が短くなる例が報告されている。ある報告者は、MTBでは断続的に高負荷がかかり、高い走行技術が要求されるために平均パワーが低下するのかもしれないとしている。

◆ パワーメーターを使ったトレーニング
パワーの測定はトレーニングセッションの強度を設定したり、トレーニング内容をあとから評価する際に有効。また、目的とするレースに必要なパワーを算出し、それに応じたトレーニングプランを立てることもできる。事前の試走でコースの分析をする場合にもパワーの評価があればより正確な分析とトレーニング計画画定が可能。さらにパワーの測定がごく正確に可能ならば、使用機材やフォームを変更しつつパワーとスピードを同時に計測することで空力的な評価分析も可能となる(図6.8)。

(本稿は以上)


この記事の先頭に戻る

[1] - [2] - [3]



サイトマップへ

「ハイロード」ホームページトップへ

COPYRIGHT AOYAMA, HIROYASU 2008 All rights reserved.

(end of page)